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和様




 ―― リンゴーン
 祝福の鐘が高らかに、碧空を響き渡った。
 時期は6月、梅雨間の晴れた良日。先日までの雨を含んだ草木は青々とした光を放ち、爽涼に澄み切っている。
 街を見下ろす丘の上の小さく白い教会の前。純白のドレスに身を包んだ少女が生涯の愛を誓い合った男性の腕に引かれ、祝いの声を上げる人の道をゆっくりと進んでゆく。少女の瞳は少し赤く、けれど幸福の光をたたえていた。
 どこにでもあるごくありふれた――だが、少女にとってはただ一度だけの輝きの時間。その結婚式はそろそろ幕が下りようとしていた。

「幸せそう…」
 隣にいた女性がそう呟いた。金色の瞳に青い瞳、赤を基調としたエプロンドレスといった格好の彼女は、花嫁を羨望の眼差しで見つめている。対して自分は銀灰の髪と瞳、この場にあまりそぐわぬ黒のエプロンドレス。互いの与える印象はまるで正反対だが、姿形はまったくと言っていいほど同じだった。本来は掃除の精霊であるふたりは、今はこの式の手伝いに来ていた。
(何がいいのだろう…)
 黒の女性、ブラックキキーモラは彼女の言葉に対し思う。ウエディングドレスは華やかな衣装だとは思うが、特別な感情は抱かない。ましてや結婚式という行事の主役になるなんてことは。
「女の子なら誰だって、一度はお嫁さんにあこがれるんですよね」
 いつの間にかこちらを見ていた相方、キキーモラが話し掛けてきた。ブラックキキーモラが「私はない」と否定すると、彼女は少し考え込んでから
「それじゃあ、これからあこがれるんですよ」
 と言った。
 はたして自分にそんなことがあるのかと思ったが、彼女を否定する理由も必要もないので、
「そうかもな」
 とだけ答えた。
 彼女は微笑みを返してくれた。
 バッ――と鳥たちが大空に飛び立ち、大地へと影が降りる。人々はすべからく天を仰いでいた。花嫁が放り投げた真っ白なブーケが宙を舞う。多くの視線を浴びながら、それはひとりの女性の腕へと収まった。
「ブ…ブラックキキーモラさん…」
「こちらに飛んできたからつい取ってしまった」
「そうじゃなくって…」
「?」
 相方が何を驚いているのかわからずに、彼女は抱えたブーケに視線を向けた。花はまあ、きれいではあった。

 彼女は知らなかったのだが、ブーケを受け取った者は次に幸せを手に入れられると言われているそうだ。そしてそれは賓客の未婚の女性に贈られるのが普通だ。
 あの場にいたほとんどの女性がぜひ自分の元にと思っていたそれを、招待されたわけでもなく、式の手伝いに来ただけの自分が取ってしまったのは、やはりまずかったらしい。ブーケとともに周囲の女性たちからのあまりうれしくない視線と、教会側の注意をも頂く羽目になってしまった。
 最終的には新婦が別に構わないと言ってくれたため、その場は収まったのだが。
「いいな、いいな〜」
 式の片付けも終わり、彼女たちは家路にへと着いていた。
「ブラックキキーモラさんてば、うらやましいな〜」
「…そんなに欲しいならやるぞ」
 ブーケはまさか返すわけにも捨てるわけにもいかず持って帰ることになったのだが、先程からキキーモラがこちらの腕の中を覗き込み「いいな」を連呼してくる。はっきり言って、うざったい。
「わかってないな〜、あの場で受け取ってこそじゃないですか」
「私は欲しかった訳じゃないんだが…」
 無知は身を滅ぼすと言うが、いまだ彼女は花束ひとつでここまで責められることに納得がいかなかった。
「欲しくないんですか、幸せ」
「幸せ…ただの言い伝えだろ」
「またそんな、乙女の夢を踏みにじるような…。好きな人と一緒に暮らせるなんて、誰だってあこがれるのにな〜」
「そう言われてもな…」
 自分は目の前の女性と対なる者として生を受けた。彼女がいてこそ存在に意味を持つ。そんな自分がどこかの誰かなどという者とともに暮らして、本当に幸せと呼ばれるものを得ることができるのか。
 心のうちで自問する。答えは…わからない。実際にやってみないとわからない。当然のことだ。
 だが、キキーモラとともに暮らしている今の生活がなかったら、自分はそれをを望んでやまないかもしれない。自分の本質は、いつでも彼女を求めているから。
 あと、幸いにも彼女は嫌な奴ではないし、興味の持てる相手でもある。それをすべて考えれば。
「たぶん…、私はすでに幸せだ」
「…それはプロポーズの言葉と受け取っていいんですか」
「何を言ってるんだ?」
「あ…あはは。そうですよね」
 時々わけのわからないことを言い出す。これだけは彼女のいいところなのか悪いところなのか、理解に苦しむ。
 少しうつむいてたかと思うと、今度は小走りでこちらの前へと回り込み、手を差し出してくるキキーモラ。
「ください」
「は?」
「ブーケ。やっぱりください」
「構わないが…どうしたんだ、急に」
「どっちがもってても同じですから」
「…どうゆう意味だ?」
 またしても理解できない。
「うふふ。ないしょ♪」
「???」
 ブーケ受け取るとなにやら楽しそうにこちらを見る。とても明るくて、少しいじわるな表情で。
 ますますわけがわからない。それでも彼女がうれしそうなので、気にはしないことにした。
 夕焼け空に雲ひとつ。明日もまた、良い結婚式日和になりそうだった。



               ― 終わり ―






−アリガトウナキモチ−

うふふふふBキキ様小説!Bキキ様ですよーっ!!?
も、どこを読んでもBキキ様 v Bキキ様主役☆ Bキキ様万歳ッ
和兄、ありがと―――っ!!

「たぶん…、私はすでに幸せだ」
この科白、すっごくBキキ様らしいと思いません?

和兄、本当にありがとう〜っ!大好きだっ


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